「2008年大会報告」

2008 Annual Meeting of Chem-Bio Informatics Society
"International Symposium on Pathway/Network to Disease and Drug Discovery Specially Focused on Nuclear Receptors and Metabolic Syndrome"


2008年大会 大会実行委員長
岡崎 康司(埼玉医科大学 ゲノム医学研究センター)
「はじめに」

 2008年10月22日から24日の3日間にわたって、学術総合センター(東京)において、情報計算化学生物学会(CBI学会)年会を開催しました。
 基調講演および招待講演として国内外から総計23名の方々にご講演頂くことができ、また一般演題(ポスター発表)は84演題と、総勢107名の演者の方々にホットな話題を提供頂き、活発な討論が行なわれました。
 座長を務めて頂いた諸先生方、そして会員の方々をはじめ御出席頂いた362名の皆様、さらにその他協賛、寄付、機器展などの関係者の皆様方の御協力により、本年会は無事閉会することができました。ここに、大会実行委員長として心より感謝申し上げます。
 以下に、年会のご報告とともに趣旨説明などを通して、2008年大会を振り返ってみたいと思います。

「開催趣旨」

大会テーマ
「Pathway/Network to Disease & Drug Discovery
-Specially Focused on Nuclear Receptors and Metabolic Syndrome」
 現在CBI 学会は生物医学や創薬への計算(Informatics & Computing)技法の応用を学会の重要なミッションとしているが、ポストゲノム(シークエンス)時代といわれる現在、生物医学や創薬が必要としている情報計算技法は明らかに、拡大変化している。その一つの方向は米国のNIH が主導している、「生物医学の重要な問題領域の解決に情報計算資源を集中する」というやり方である。Pathway/Network to Disease & Drug Discovery-Specially Focused on Nuclear Receptors and Metabolic Syndrome(疾病経路網からの疾患と創薬−とくに核内受容体と生活習慣病に焦点を当てて)」をテーマとするこの大会では、社会的に大きな問題となっているメタボリック症候群問題解決に情報計算からの資源や研究者を集中する」という理念を具体的に追求することをめざしている。しかし、各テーマはCBI 学会の7つの関心領域との対応がつくように配慮されている。この意味で参加者は「Nuclear Receptors」だけでなく、生物医学と創薬への情報計算の応用に関心のある幅広い研究者を想定している。

「大会総括」

 上記にある大会趣旨に基づき、従来からのCBI学会の7つの関心領域を十分に意識した上で、なおかつ1つの大きな研究テーマについて考えられるような国際学会を目指すということで、その実行委員長として小生が任命されました。約1年半の準備期間をもって、実行委員の皆様、CBIの関心領域委員の皆様、ロジスティック委員の皆様の多大な貢献により、大会テーマで掲げた、「核内受容体ならびにメタボリック症候群関連」についての専門家に国内外よりご参加頂き、最先端の話題を提供頂くことができました。これだけの数の専門家に一同にお集まり頂けたことはCBI学会としても光栄の至りと考えています。今回の大会では、特に大会実行委員会の大会顧問として数々のご助言を頂いた東京大学教授 門脇孝先生、東京大学教授 加藤茂明先生によるところが大きく、ここで改めて感謝の意を表したいと思います。個別のセッションでは実行委員の先生方が、1ヶ月に1度程度のペースで集まって討議をした結果すばらしいセッションを設けることができ、またすばらしい演者を招待できたものと思っています。
 一番気を使った点は、CBI学会の7つの関心領域である1.分子計算 2.分子認識 3.分子生物学における情報計算技術 4.ゲノムワイドな実験データの解析 5.医薬品研究と毒性研究支援システム 6.疾病メカニズムと制御モデル 7.その他 との関連付けでした。これらの関心領域との関連を意識しながら、今回の大会テーマである「Pathway/Network to Disease & Drug Discovery -Specially Focused on Nuclear Receptors and Metabolic Syndrome(疾病経路網からの疾患と創薬−とくに核内受容体と生活習慣病に焦点を当てて)」を実現するために、1日目から3日目までがテーマ的にシームレスにつながるように配慮しました。
 1日目の午前中は、メタボリック症候群および核内受容体と疾患に関する包括的な話を、生活習慣病の専門家、香川女子栄養大学 香川靖男先生にご講演頂きました。1日目の午後には、核内受容体を中心に、メタボリック症候群との関連などについて各分野の専門家からご講演頂き、2日目の午前のセッションでは、核内受容体を創薬標的とする計算科学的アプローチやトキシコロジーについてその分野の専門家に御講演を頂きました。2日目の午後は、オミックス、パスウエイ、ネットワークをテーマとした核内受容体の標的あるいはメタボリック症候群へのアプローチについてご講演頂きました。このセッションのレポートは別紙(水野report)参照頂きたいと思います。3日目の午前は、核内受容体の構造解析を用いた創薬的アプローチや創薬標的としての核内受容体についてより実践的な話についてご講演頂き、午後のセッションでは、核内受容体を標的とした疾患へのアプローチならびにメタボリック関連疾患について御講演頂きました。また、ランチョンセミナーとして2日目に東京大学教授 門脇孝先生から生活習慣病の分子機構・遺伝子素因やテーラーメード医療の展望につきご講演頂き、3日目には東京大学教授 加藤茂明先生よりビタミンDの活性化に関与するCYP27B1のビタミンD受容体による抑制機構の最新の知見についてご講演頂きました。また2日目の特別講演では、理研オミックスセンター長の林崎良英先生より、ゲノムワイドなトランスクリプトーム解析についての最先端の報告がなされました。全体を通して、非常に高いレベルの講演と質疑応答がなされました。


「ポスター発表(一般演題)」

 一般演題としては、従来と同じくCBI関連領域からのポスター応募を募りました。今回は大会テーマを強調しすぎたあまり、多少の誤解があった部分もありますが最終的に総計84演題が発表され盛会裏に終了することができました。3 日目の閉会式の場で、河合隆利CBI学会会長からポスター賞の発表、授賞式があり、受賞者に賞状および副賞を贈呈しました。受賞演題は以下の通りです。関係者の方々にお祝い申し上げます。 

優秀賞(the Excellent Posters)

Yoshitake Cho
"DEC is a nuclear receptor co-repressor"

Hajime Sugiyama
"A New Method for Prediction of Protein-Ligand Interactions by means of Knowledge Based Potential"

Masahiro Matsumoto
"Theoretical study of protoporphyrinogen IX oxidation mechanism in protoporphyrinogen oxidase"

Yutaka Nakachi
"Identification of Novel PPAR gamma Target Genes and Response Elements by Integrated Analysis of ChIP-on-chip and Microarray Expression Data during 3T3-L1 Adipocyte Differentiation"

Atsushi Kasuya
"Landscapes of Solubility and Metabolic Stability on Molecular Weight-Lipophilicity Maps"

Kazunari Iwamoto
"Elucidation of the deregulation of G1/S transition induced by DNA-damage at late G1 phase"

「最後に」

 外国招待講演者の方々から、「とてもinformativeでat homeな会であった」、「自国でこの会を開催したい」といった感想を頂き、とても有意義な年会とすることができました。外国人研究者間では、異分野での共同研究を本大会での出会いから進めることができたとの声も聞かれました。シンポジウムでは計算化学者の方々にとってはなじみのない部分も多々あったかも知れませんが、ポスターセッションでは議論が盛り上がっており大変良かったと思います。本大会の運営にあたっては、CBI学会事務局の皆様の多大な努力と、東京医科歯科大学 田中博教授の研究室の大学院生の皆様の貢献が誠に大でありました。末筆ながらお礼を申し上げます。
 本大会の閉会式に続いて、九州大学教授 岡本正宏理事より、 2009年度の大会は、2009年11月4日(水)〜6日(金)ソウルで、日韓共同開催となることがアナウンスされました。ぜひ、今後ともCBI学会が国際的な舞台で広く認められ、活発な運営が行なわれることを期待しています。