Newsletter for Chemistry, Biology, and Informatics Researchers
CBI News 1995 Vol.15 NO.4 計算機と化学・生物学の会 広報誌

[目次]

第140回CBI 研究会ワークショップ「生体分子データベースとインターネット」

  • ■ワークショップ「生体分子データベースとインターネット」準備の記
  • ■ゲノムネットの現状
  • ■講演を聴いての感想

  • [記事]

    ワークショップ「生体分子データベースとインターネット」準備の記
    生命工学工業技術研究所 上林正巳

    CBInetもこの3月で1周年を迎えることとなりました。当初の予 想では、すぐに接続希望が殺到して回線の増設を考える事になる と思っておりましたが、案に相違して、接続希望の立ち上がりが 遅くネットワーク企画担当者としては、はらはらしておりました。 しかし、ここに来て法人会員の接続希望もふえ、また、懸案だっ た CBI 事務局の事務の合理化もAppleShareによる文書の共有化 や、ネットワークを利用した mail、ftp 等を使うこと ができる ようになり CBINews の誌面校正の file を編集委員長である高 橋先生や神沼先生との間でやりとりされるようにまでになりまし た。会員の皆様で CBI の電脳に user accountを持たれる方々も 増えて、種々の役割のプラットフォームとして認められてきた事 と喜んでおります。
    このような中、去る1月13日に「生体分子データベースとイン ターネットの利用」と銘打って、インターネットを利用した生物 系情報の取扱いのための CBI 研究会ワークショップが開かれま した。会場となった化学会館会議室には本ワークショップの講師 である秋山先生の御提供による、ISDN 臨時電話回線と画面投影 機が設置され、各講師によるデモが会場から直接インターネット 接続がなされて行われるという面白い企画を実行する事ができま した。
    講演は、ゲノム解析や生物系情報のデータベースサイトとして 大変活発に活動されているGenomeNetの紹介を「ゲノムネッ トの 現状」と題して、京都大学化学研究所の秋山泰先生に、次いで東 京都臨床医学研究所の灘岡陽子先生による「Macを 用いたダイア ルアップ PPP 接続の実際」の実践的な設定方法と接続デモを、 最後に御無理を願った国立衛生試験所の五十嵐貴子先生に「イン ターネットからの細胞信号伝達系ネットワーク ・システムの利 用」として、acedbを使用した CSNDB の開発の御紹介と実際のデ モを行っていただきました。もちろんCBI 研究会ワークショップ として久しぶりのデモンストレーションが面白かっただけではな く、各講師の方々が紹介された内容が大変しっかりしたものであ ったことが一番有意義であったのは当然です。 本号および次号において、このワークショップの内容の紹介を させていただくことになりました。秋山先生、および本講演の感 想。さらに五十嵐先生と続きます。御期待ください。なお、灘岡 先生の実践手引書とプログラムをご希望の方は CBI 事務局にお 問い合せください。最後に、本ワークショップのために電話回線 の設置および接続機材を持参いただきました秋山先生と、ワーク ステーションをお貸しいただきました富士通(株)筑波営業所 に 感謝いたします。


    [記事]

    ゲノムネットの現状
    京都大学化学研究所 秋山 泰

    はじめに

    ゲノムネット(GenomeNet) は、分子生物学および医学などの研 究組織をむすぶ情報インフラストラクチャ作りをめざして、1991 年9月から運営を開始したコンピュータネットワークです。開始 当初は東大医科研ヒトゲノム解析センター、京大化研スーパーコ ンピュータラボラトリー、阪大細胞生体工学センターの3拠点を 専用回線で結んだものでしたが、現在では蛋白工学研究所、蛋白 質研究奨励会、SPring-8、国際高等研究所、藤田保健衛生大学な ど多くの関連機関を接続し、バックボーンも東京〜福岡間 (512K bps) に延長されています。ゲノムネットは文部省重点領域研究 「ゲノム情報」(代表 金久實)と東大医科研のヒトゲノム解析セ ンターで運営していますが、ネットワークを通じて提供する情報 サービスはひろく世界中の研究者に公開されており、誰でも自由 に利用できます。

    電子メール・FTPなどのサービス

    配列の相同性解析 (BLAST、FASTA)、モチーフ検索(MOTIF)、デ ータ取得 (DBGET) などのサービスを電子メール経由で受け付け ています。利用法については、後述のパンフレットを請求して下 さい。インターネットに IP 接続されていないマシンからでも気 軽に利用できるのが、電子メール経由のサービスの特徴です。 インターネットに IP 接続されているサイトからは、ゲノムネ ットの anonymous FTP サーバ (ftp.genome.ad.jp) が利用でき ます。ゲノムネットの研究コミュニティで開発した各種 DB のほ か、NCBI や EBI が収集した DB も置かれています。Gopher を お使いの方は、gopher.genome.ad.jp からの取得も可能です。

    ゲノムネットWWWサービス

    現在のゲノムネットのサービスの特色を最もよく反映している のが、94年7月から国際的な公開を始めたゲノムネットWWWサーバ (http://www.genome.ad.jp) です (図1参照)。サーバ上の主メ ニュー (図1の左上部分) には、ゲノムネットや日本のゲノム プロジェクトの紹介、DBGET 統合データベース検索システム、配 列解釈ツール SIT、FTP サービス等があります。以下では特に、 データベース検索システムである、DBGETメニューについて説明 します。
    DBGET システム上では、WWW画面に表示されるデータベース相 互リンク図 (図1の右上) の上で、利用したいデータベースをマ ウスクリックすることで検索が開始されます。現在では、核酸配 列、アミノ酸配列、立体構造、文献、遺伝病、酵素反応など16 種類のデータベースを直接、間接に利用可能であり、各データベ ース間で関連するエントリ同士はリンク(アンカー)で結ばれてい ます。
    たとえば図1の中央はアミノ酸配列 DB である SwissProt の エントリ例ですが、ここで下線が引かれた部分をクリックするこ とにより、核酸配列 (EMBL)、アミノ酸配列モチーフ(PROSITE)、 文献アブストラクト(MEDLINE) などの該当エントリをただちに呼 び出せます。データベース間の相互参照は膨大ですので、これら のリンクを計算機が自動的に発見して付加させる機構を作成しま した。
    相互リンク機能はたいへん便利で、多種のデータベース間を渡 り歩くような検索も従来より遥かに短時間で実現できます。そし てまたデータベースを作成する側にも大きな恩恵がありました。 それは、日本の研究者が開発した専門的な DB を、PIRなどの公 的 DBと相互リンクさせることにより、世界中のユーザに気軽に 利用して貰える点です。例えば京大化研で作成したLIGAND (酵素 反応)、AA-Index (アミノ酸インデックス)、蛋白質研究奨励会の PRF (アミノ酸配列)、LITDB (文献)、蛋白工学研究所の PMD (蛋 白質変異) などのデータベースが、従来に増して頻繁に国際的に 利用されています。
    1995年2月の統計では、利用は世界40ケ国にわたり、一日平均 約2000 回の呼び出し (HTTP単位) を受けており、アクセス数の うち約2割が国外からとなっています。

    昨年末に付加された新しい機能を2つ紹介します。第一は LinkDBと呼ぶデータベースの導入です。これは種々のデータベー スのエントリ間の相互関係を集めたデータベースです。各データ ベースに元々書かれていた (original) リンク関係のみならず、 その逆引き(reverse)や、複数のリンクをたどる間接的(indirect) な関係も演繹して保持しています。DBGET 上では、各エントリ 表示の先頭行をクリックすると LinkDB が呼び出され、関連する エントリを即時に一覧することができます(図1左下に少し見え ます)。第二の機能は配列解釈ツール SITメニューで、相同性解 析 (BLAST) などが行なえます(図1右下)。検索結果の表示画面 からもリンクが張られており、ヒットした配列をただちに呼び出 して調べられるので便利です。

    ゲノムネットでは今後とも、研究者の基礎的なツールとして、 あるいは我々の研究発表の方法の一つとして、様々なサービスを 公開していくつもりです。本稿では全容はご紹介できませんでし たが、より詳細を知りたい方は以下の窓口に、データベースサー ビス利用案内およびVHSビデオの送付をお申込み下さい。希望者 にはニュースレターの継続的な送付も受け付けています。

    問い合わせ先:東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター
      〒108 東京都港区白金台4-6-1
      Tel: 03-5449-5620  Fax: 03-5449-5434  
      E-mail: info@genome.ad.jp
    

    [記事]

    講演を聴いての感想
    キリンビール(株) 今井健夫

    まだまだ寒い日が続いているが、それでも時々、ものの芽の出 はじめのかぐわしい、匂いともつかない匂いを含んだ空気が、そ のうち、あたりを取り巻いていきそうな気配を感じることがある。 日頃インターネットをもっと活用していきたいと思っていた矢先 の、CBI研究会の今回のワークショップも、小生にとってまさに 春の訪れの一局面を彷彿させるものであった。
    我々の会社はCBI研究会に参加しているが、小生が今回のワ ークショップを運良く知ったのはたまたまであった。現在、小生 は計算機による分子設計を行っているわけではなく、ビール醸造 の技術開発に従事している。ビール醸造は5000年という長い歴史 をもち現在に至っているわけであるが、それでも厳しい評価のの ち、次々と新規技術が取り入れられている業界である。今後も、 1日でも早く革新的な技術を創出していくためには、今なお存在 するブラックボックスに鋭いメスを入れていく必要があると考え ている。それをサポートするものの一つとしてインターネットの 有効活用を考えていた。日本は現在、その世界的地位向上にとも ない、これまでむしろ take だけであった状況からもっと give をしていかなくてはならない状況になっている。「非営利ベース で産官学の研究に提供するとともに、世界の研究者に情報の発信 をしていこう」とする CBI net の主旨に興味を覚えたことも今 回参加させていただく動機になった。
    今回CBI研究会に参加させていただき、寒い中、しかも年初 の忙しい時期であるにもかかわらず多数の参加者があり、各社の インターネットに対する興味の大きさを実感することになった。 秋山泰先生の「ゲノムネットの現状」では、World Wide Webなど について、素人にもわかりやすく、おもしろくも明快に解説して 下さった。またゲノムネットのデータベースの紹介なども興味深 く有り難いものだった。さらに、ビデオ「ゲノムネットデータベ ースシステムの利用案内」やゲノムセンターサービスを受けるた めのディスクを無料配布して下さった。灘岡陽子先生の「Mac を 用いたダイヤルアップ PPP 接続の実際」では、IP接続について 解説後、実際に実演して下さり、初めての者でも簡単に繋げるよ うによく配慮されていて、きわめて分かり易いものであった。ま た、講習後もこちらの問い合わせに対して丁寧にフォローして下 さった。五十嵐貴子先生の「インターネットからの細胞信号伝達 系ネットワーク・システムの利用」では、独自に構築された細胞 信号伝達系ネットワークを紹介していただき感心するともに、短 期間でもこれだけのものの開発を可能ならしめる昨今のコンピュ ータ環境に驚かされた。
    すべてが大変ためになったワークショップであった。今回の ワークショップ成功の裏には、それまでに行われたであろう膨大 なやりとりと、CBI net を立ち上げられた方々の大変な努力の積 み重ねがあったことは容易に想像された。どなたが、どのように ご尽力されてこられたかは、たまたま参加させていただいた小生 には不明であるが、この献身的な努力とCBI net の主旨に思わず 頭を下げざるを得なかった。聴衆の一人としてここに厚く御礼を 申し上げたい。
    10年後の今日、10年前のCBI研究会の今回のワークショップ を思い起こして、今もかわらぬ、晩酌のうまいビールを味わえる ものと思っている。 (1995年3月)

     


    CBI研究会会長   細矢治夫     (お茶の水女子大学)
    編集委員長      高橋征三     (日本女子大学)
    編集委員        平山令明     (東海大学)
                    中田吉郎     (群馬大学)
                    磯野克己     (神戸大学)
                    上林正巳     (通産省工業技術院)
                    古谷利夫     (山之内製薬(株))
                    多田幸雄     (大鵬薬品工業(株))
                    神沼二真     (国立衛生試験所)
    発行 CBI研究会事務局
            NEWS担当        小沢陽子・太田玉恵
            〒141 東京都品川区北品川 5-3-20 第二エーエスビル3階
            Tel:03-5421-3598 Fax:03-5421-7085
            E-mail:cbistaff@cbi.or.jp
    

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