マイクロドーズ臨床試験 理論と実践−新たな創薬開発ツールの活用に向けて−
編著 杉山雄一、栗原千絵子      発行: 株式会社じほう

水間 俊(東京薬科大学)
 ゲノミクス、プロテオミクス….と、近年、医薬品開発が飛躍的な進歩を遂げようかという勢いである。しかしながら、医薬品開発において必ず必要となるのは、生身の人にIND(Investigational New Drug)を投与し、データを得る事である。当然の事ながら、INDを初めて人に投与するということは、我々が未知の領域に入ることであり、問題となる不測の事象は限りなく0%にすることが望まれる。そこで、新たな考え方を導入した方法(ツール)が、このマイクロドーズ(マイクロドージング)であると言えよう。本書は、このマイクロドーズによる臨床試験を理解、実施する際に有益な情報を紹介、解説している。

“マイクロドーズ臨床試験”の定義として本書では、「被験物質を、薬理作用を示す投与量計算値の1/100未満かつ100μg/human以下の用量で単回投与する臨床試験」と紹介している。この試験方法を初めて知った人は、どのような利点、そして問題があるのかと、それぞれの立場から考えを巡らせるのではないだろうか。本書は、それらに答えるべく、様々な観点から紹介している。

全7章から成る本書は、各章それぞれに“責任監修”者名が記載されており、内容に対する厳格な姿勢が先ず感じられる。「第1章序言 新たな創薬開発ツールを手にいれるために」から始まり、「第2章非臨床試験」においては、EU型マイクロドーズ臨床試験、米国型マイクロドーズ臨床試験について、日、米、欧のハーモナイゼイションへの課題などが述べられている。「第3章薬物動態学的検討」では、分析法などを含めた薬物動態学的、薬物速度論的な観点から解説されており、各章の中で最も多くのページを割いている「第4章PETイメージング技術」では、中枢薬、抗腫瘍薬、循環器系薬剤のPETによる評価の実例が紹介されている。さらに、「第5章臨床試験の実践と規制」、「第6章開発戦略と品質保証」、「第7章提言」、でまとめられている。また、転載資料として、薬物動態学会から提言されている「我が国における医薬品開発に関する提言 探索的早期臨床試験とPK/PD試験の推進」が掲載されている。

総勢36名の執筆者により、あらゆる観点、側面から述べられている本書には、マイクロドーズ臨床試験に関することは、全て網羅されていると断言できるのではないだろうか。事実、巻頭において「本書は、「マイクロドーズ臨床試験」の金字塔である。日本はもちろんのこと、世界的にも、この種の体系的な啓蒙書は未だ刊行されていない。」と述べられている。本書を読まれて、疑問点、新たな問題点、提案などが思いついたならば、著者の方々とディスカッションされてはどうだろうか。過日、2月には、本書編著者らによるシンポジウムも開催されており、次回の開催もあるのではないだろうか。