主要テーマの詳細
1. 分子認識と結合性の予測 Molecular Recognition and Binding Affinity Elucidation
CBIの最も関心の高いテーマは医薬品の開発であるが、CBIの立場から見たその核心技術のひとつは分子認識である。この問題は、医薬品の標的となる生体分子の構造が既知の場合、これとうまく結合する医薬品の候補化合物を高速に探索する、いわゆるバーチャルスキャンニングの基盤であり、リード化合物を改良していく際のガイドとなる技法であり、標的構造な未知の場合にその結合部位の特徴を推定するPharmacophore やToxicophoreを類推する基盤技法と関係している。
すでに自由エネルギー摂動法による結合性の解析や、経験的な力場や経験パラメータにもとづくバーチャルスキャニングのためのドッキング予測プログラムが開発され、またCoMFAのようなQSARソフトが開発されている。またさらに、フラグメントMO法と呼ばれる大規模系に適用できる精度の高いab initio MO法の近似計算手法も開発され、力場や経験パラメータに依存しないで結合性を理論的に予測する可能性が示唆された。本シンポジウムでは創薬の基礎となる分子認識や結合性の予測問題に取り組む分子計算法について、最近の世界動向を交えて討論する。
2. ゲノム情報計算 Genomic Computing
ゲノム解読計画の進展によって、生物医学全体に新しい研究の方法論が普及しようとしている。医薬品の開発はその影響を受けるがその成果である製品が上市されるより以前に、Personalized Medicineを指向した臨床サービスがはじまることが予想される。とくに、血液疾患の鑑別診断などへのDNAチップの応用がすでに始められている。この他に、病原微生物のゲノム解析は、例えば、薬剤耐性をしめす細菌に対処するための、新しい標的を教えてくれている。さらに、遺伝子の機能解析の一環として、タンパク質の相互作用のカタログづくりや信号伝達系への関心が高まっている。こうしたデータや知識ベースの構築が急ピッチで進められている。またこうした分野には特化したベンチャー企業も多数設立されている。今後遺伝子機能の解明はPersonalized Medicineにおいてますます重要となるであろう。このシンポジウムでは、ゲノム解析計画の進歩を踏まえて、その創薬や臨床診断への応用を実践的な立場から明らかにし、そのために必要な新しいバイオインフォマティクスの新しい課題を討議する。
3. 創薬と臨床薬理の現場を結ぶ Bridging the Gap between Drug Discovery and Clinical Practice
ゲノム解読とその基盤であるゲノム技術の進歩により、個々の患者の遺伝的な特性を考慮した薬物治療が可能となると言われている。海外ではPersonalized Medicine、我が国ではテーラーメード医療と呼ばれるこうした良質の医療サービスが可能になるためには、最新の知識が臨床現場にタイムリーにとどけられ、また活用される環境が整備されていなければならない。ゲノム医学やゲノム創薬に関する議論が多いわりには、Personalized Medicine を実践するための環境を整備することは、まだあまり論じられていない。また、具体的にどのような環境を整備すべきかも、議論されることは少なかった。このミニシンポジウムでは、Personalized Medicineを実践するための、データや知識や情報システムなどの基盤環境を、さまざまな切り口から明らかにすることを目的とする。こうした情報基盤は、それぞれの医薬品ごとの効果と問題点を創薬の研究者にフィードバックするためにも有用である。このような意味で、創薬現場とそこで生み出される医薬品が実際に使われる臨床現場を結ぶことは、医薬品の適正な使用の立場からも、極めて重要な課題である。このワークショプでは、この課題に具体的にどう取り組むべきかをも討論する。
4. ポータルと基盤ネットワーク Portal and Network Infrastructure for CBI Consortium
CBIは、計算化学、バイオテクノロジー、バイオインフォマティックス、情報技術など、学際領域に関わる産学官の研究者の情報交換と協力関係の基盤づくりを重要なミッションとしている。CBI学会では、こうした情報交換と協力関係の基盤づくりのためのインターネットのポータルの構築を試みているが、新たな方向として、共同研究、データや知識ベースの共有、研究リソースの円滑な入手などを目的とするネットワーク環境の構築を模索している。その第1歩は、CBIのホームページを充実することであり、第2歩は一般ユーザと限定されたユーザの双方を想定したインターネットの環境づくりである。後者については、アドイン研究所とInforMax社とが共同で、実験システムの構築を進めているところである。本セッションでは、企業の技術発表と展示と連動してこれまでの研究成果を報告する。