CBI NEWS 復刊第5号 (抜粋) 2003年8月8日発行 |
C.A. Lipinski博士とN. Richards教授の研究講演会の話題から CBI学会の事務局では、実験的な試みとして表記の2つの講演のPowerPoint資料を作成し、希望する会員に実費で提供することとした。各講演会では、講師の方にお願いしてできるだけ事前に話す資料を提供していただき、講演会予稿資料に収録するようにしているが、講師の都合で必ずしもこちらの希望どおりにいかないことがある。また、講演の録音や講師の写真撮影も行っているが、とくに録音は状況によって良質な記録にならないことがある。これら予稿集は、研究講演会事業の主要なスポンサーである法人賛助会員には、欠席されても必ず担当者に送付するようにしているが、講演会後に、質疑や感想を含めた記録としてまとめ、これを提供できれば理想である。しかしこれは事務局の努力だけでは無理で、世話人など、専門家に協力していただかねばならない。それが無理でも、提供されたスライド(PowerPoint)資料が話の流れに乗った完全なものであり、講演の録音がよければ、講演内容の把握は正確にできる。今回この条件を満たすもので、とくに表記の2人の英語の講演に関しては資料が揃えられたので、試験的に提供してみることにした。この試みに関するご感想をお寄せいただければ幸いである。 4月の講演会のLipinski博士はすでに昨年ファイザーの現役を退かれ、現在は顧問あるいは嘱託の身分で研究を楽しまれている様子で、今回の講演にも、ゆきとどいた丁寧な資料を用意されたし、講演も最後に部分を多少の例外として、ほとんど配布資料どおりであり、話し方もゆっくりしていたので、大変わかりやすかった。多くの参加者も同様の印象をもたれたのではあるまいか。 7月の講演会のRichards教授は実は最初と最後の2回講演されているが、今回採録したのは、より多くの研究者が関心をもたれるであろうと思われる、
"An Overview of Current and Future Methods for Drug Discovery in the USA"と題した2つ目の講演の方だけである。実はこの講演は、この講演会の世話人でもあったCBI学会の多田会長がもう一人の世話人である富士通の澤田氏と相談されて、Richards教授に特別にこうした題で話してくれと依頼されたと伺っている。「自分がこの題で話すのに相応しいとは思えなかったので、承諾するにはかなりの抵抗があった」とRichards教授は言ってはいたが、内容は大変面白いものであった。例えば、いまや医薬品開発には膨大な投資と長い時間が必要だから、市場性からすれば、感染症では元がとれない、どうしても生活習慣病のような分野を狙わざるをえないと言われた。また、医薬品開発へのbioinformaticsへの期待はcomparative genomicsである。とくに、同一タンパク質でも種が違うと働きは異なる可能性がある。Leptinはその好例で、マウスの結果が必ずしもヒトに外挿できない。この点に関して私がもう少し詳しく教えて欲しいと質問すると、彼の同僚の教授の名前を挙げられた。後にインターネットで検索してみると彼らの興味深い仕事がいくつかでてきた。フリーで読める最近の論文は、Eric A. Gaucher, Michael. M. Miyamoto and Steven A. Benner, Evolutionary, Structural and Biochemical Evidence for a New Interaction Site of the Leptin Obesity Protein, Genetics, 163, 1549-1553(April 2003)bネどである。化石学から年代を推定してタンパク質の進化系統樹を解析するというゲノムと遺伝学を基礎にした研究手法が売り物であり、実験動物モデルの限界を論ずるドラッグデザイナーや毒性学者には有用な仕事であろう。次は講演後の飲み物を片手にした情報交換時の話であるが、私が現在Nuclear Receptorの知識ベースづくりに興味をもっていること、その意義として、Endocrine系の疾患、肥満や糖尿病関連の疾患(Syndrome X), さらにRichards教授の言われた新薬開発の難点であるADME予測との関係が深いことなどを話したら、NIHが来年から大きな予算を糖尿病のモデル作成に投ずることになったということを教えてくれた。これもその後インターネットで調べてみると、Beta Cell Biology Consortium (BCBC)という共同研究グループが発足していることを知った。これが彼の言った計画かどうか定かでないが、いろいろと新しいことが学べた講演会であった。世話人である富士通の澤田氏と多田会長に感謝したい。
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