1998年11月20日(金)のCBI講演会「遺伝子治療の新しい流れ」の講演要旨をお送りします。得難い機会ですので、是非ご参加ください。

放射線感受性プロモーターによる癌の遺伝子治療

大野 典也(東京慈恵会医科大学、微生物第1、DNA医学研究所)

[目的]
遺伝子治療の臨床応用を考える上で、遺伝子を特定の部位と時期に発現させることができれば効果と安全性は向上する。我々は、EGR-1プロモーターの特性に着目し、放射線で目的遺伝子を作動させる方法を検討した。膵臓癌等多くの癌では発症の早期から遠隔微小転移巣を形成する。一方ガリウム(67Ga)やテクネチウム(99mTc)等の放射性同位元素は癌局所に特異的集積性を有する。放射線や放射性同位元素によるプロモーターの活性化を証明し、臨床応用に向けての検討を進めている。

[方法および結果]
細胞は電離放射線に多様な生物学的反応をする。細胞周期の停止と傷害DNAの修復に関する一連の反応である。このとき転写促進される前初期反応遺伝子群(Immediate- early Genes)c-fos, c-jun, Egr-l の各遺伝子について検討した。その内でEgr-l遺伝子が最も早期に発現することを明らかにした。次にX線によりEgr-l遺伝子の転写活性を亢進させるプロモーターの構造はCA(A+T-rich)*6 GG:(CArG)であることを明らかにした。このEGR-1プロモーター(pE425クローン)の放射線感受性を利用して悪性腫瘍の遺伝子治療の方法論の開発を試みた。先ず目的とする脳腫瘍と膵臓癌細胞でのEGR-1プロモーターの機能を検討し、培養グリオーマ細胞とヒト膵臓癌細胞で放射線照射による発現誘導の10倍から100倍の増加を確認した。次いで、このプロモーター領域と各種の殺細胞遺伝子の組み合わせで殺腫瘍効果を検討した。その結果、放射線照射により遺伝子を特異的に発現させ、照射群では殆どの癌細胞は死滅した。EGR-1プロモーターは放射性同位元素でも活性化されることを見出した。放射性同位元素としては131Iのようなβ線照射物のみでなく、99mTcのようなγ線照射物質によっても活性化が可能であった。67Gaを3MBq/ml添加することにより、500倍以上の転写活性の増強が観察された。

[考察]
放射線や放射性同位元素を遺伝子治療に応用し、より安全性と効果を高め得る。更に、薬剤を工夫して、一層安全な治療法を開発する。近い将来、患者の治療に役立てられるよう、さらなる努力を進めている。