*** 第176回 CBI研究講演会 ***

「ゲノムから創薬毒性学へのアプローチ」


先の9月の研究集会では、話題の内分泌撹乱物質(いわゆる環境ホルモン)を例として、創薬と毒性学へのゲノム科学的なアプローチの概要を紹介しました。このようなアプローチは、欧米では、創薬現場においても、内分泌撹乱物質への対応など毒性学の分野においても、どんどん進展して、その差は開くばかりではないかと私達は心配しています。今回はこうした彼我のギャップを少しでも埋めることを目的として、薬物毒物の代謝に大きな役割を果たしているP450の遺伝子レベルからみた役割、DNAチップやペプチドチップ技術の現状、それらを用いた細胞内の受容体の機能解析、さらに遺伝的に改変した酵母を用いた鋭敏なアッセイ系など、新しいアプローチを紹介してもらいます。ゲノム創薬、内分泌撹乱物質、マイロアレー技術に関心をお持ちの方は、是非ご参加下さい。なお、多くの方々に興味を持たれている国立医薬品食品衛生研究所 化学物質情報部で作成した内分泌攪乱候補物質および関連物質リストの最新版を配布する予定です。

日時: 1998年12月18日(金) 13:15 ~ 17:30

場所: 日本薬学会 薬学会館 会議室
東京都渋谷区渋谷2丁目12番15号  TEL.03-3406-9123

世話人:三輪錠司(日本電気(株))、神沼二眞(国立医薬品食品衛生研究所)

演題:
1.13:15~14:30
「薬物代謝酵素P-450からみた内分泌攪乱物質の作用」
有薗幸司(長崎大学環境科学部)

2.14:30~15:30
「DNAチップの開発とその有用性」
内田和彦(筑波大学基礎医学系 生化学)

3.15:40~17:30
「創薬毒性研究への新しいテクノロジー」
Lothar Germeroth (Jerini Biotools, Germany) Dirk Scharn(Jerini Biotools, Germany)

「薬物代謝酵素P-450からみた内分泌撹乱物質の作用」
長崎大学 環境科学部   有薗幸司

我々の生活環境は天然由来の化学物質に加え、多くの環境化学物質(環境汚染物質、医薬品、農薬、産業用化学物質、食品添加物を含む)に取り囲まれて生活している。こられの化学物質を一方では有効利用し、恩恵にも浴しているものの、その危険性を認識し、制御する知識も高まっており、安全性や危険性に関して多くの未知の部分が残されている。環境中の化学物質が生体に侵入してくると生体との相互作用の結果、あるときはヒトを含めた生態系に内分泌撹乱など様々な影響を引き起こす。この時生体内へ取り込まれた化学物質は、生体側の様々な生理的、病的あるいは遺伝的要因など内的要因や、外的環境要因によって影響される多様な酵素反応を受け水溶性の代謝物として体外へ排泄される。これら一連の反応を薬物代謝という。薬物代謝酵素の重要な役割を担うのがシトクロムP450である。一般に生体に入った化学物質は吸収されると血液蛋白と結合し体内へ運ばれる。組織内に取り込まれるとレセプター(受容体)と結合して作用を現し、一方肝臓を主として種々の臓器で様々の酵素により酸化・還元加水分解あるいは抱合化を受ける。こうして化学構造を変えられ、より水溶性のものとなり主として腎臓から尿中へ、あるいは胆管を経て腸管へ排泄される。生体内で化学物質の化学構造が変化することは受容体との親和性や結合能も変わり生体への反応性も大幅に変化する。この代謝課程で生ずる活性中間代謝物がときには核酸や蛋白質と不可逆的に結合し、臓器障害、ガンや遺伝子異常などの毒作用発現につながっている。内分泌撹乱作用もその一つである。今回、内分泌撹乱物質の作用機序を生体内薬物代謝能やステロイド代謝に関与するP450との関連から概説する。

「DNAチップシステムの開発とその有用性」
筑波大学基礎医学系 生化学   内田和彦

ジーンチップを用いた技術はここ数年米国が中心になって急速に発展し、ゲノムプロジェクトが終了した後の全遺伝子情報を有効に利用するために欠かせない技術として最も注目されている。すでにジーンチップを用いた遺伝子診断システムが各国で開発されつつあり、世界の研究者、企業が競い合って医学薬学分野での実用化に取り組んでいる。疾患の原因遺伝子を同定するためには、最終的にはヒトの約十万種類といわれる遺伝子の全塩基配列を対象に解析する必要があり、従来のシーケンスの技術では時間、労力、コストの面で困難であることから、ジーンチップを用いたハイブリダイゼーションによるシーケンスが開発された。また様々な環境下における細胞の遺伝子発現のパターンを全遺伝子対象に調べる遺伝子発現モニタリングは、ゲノムプロジェクトの成果ともいえるESTクローンを利用したcDNAのマイクロアレイ化によって可能になりつつある。米国のNCIでは、前立腺がん、乳ガン、肺ガンなど米国で問題になっている9つのがんを対象に、正常、前がん病変、がんの間の遺伝子発現プロファイルを比較することで、がん化のメカニズムの全容を明らかにするCancer Genome Anatomy Project (CGAP)と呼ばれる大規模なプロジェクトが進んでいる。我々はスライドグラスに約一万個のクローンをアレイ化したジーンチップのシステムを構築し、がんの遺伝子発現モニタリングなどの遺伝子解析を試みつつある。我々が日本レーザー電子ととも構築したマイクロアレイシステムの紹介とジーンチップをとりまく最近の進歩と現在の問題点、その将来像についてまとめたい。


講演会参加資格:CBI研究会個人会員・法人会員の方、非営利研究機関の研究者の方は、どなたでも参加できます。法人会員以外の法人からの参加希望者は、一人 3000円の参加費が必要です。事前に必ず事務局に連絡してご参加ください。

連絡先: CBI研究会事務局
〒158 東京都世田谷区用賀4-3-16 イイダビル301
Tel. 03-5491-5423 Fax. 03-5491-5462
E-mail: cbistaff
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