昨年はゲノム解析の進歩を取り入れた医薬品の開発、患者個人の特性を 考慮した治療という夢が語られた。本年はその実現に向けての行動が問わ れている。国もミレニアムプロジェクトなどで、その実現への予算的な措 置に動いており、バイオインフォマティクスの研究機関づくりも、複数の 省庁で進んでいる。しかし、わが国の現状を欧米のそれに較べると際だっ た違いがあるように感じられる。それは、わが国のゲノム解析研究やバイ オインフォマティクスが基礎科学(つまり文部省、科学技術庁)や産業振 興(つまり通産省や農林省)の指導で進められており、肝心な人の健康に 直接かかわる、米国であればNIHやNLM/NCBIに相当する機関の体制の強化 がはっきりしないことである。このことと、合併を繰り返しながら巨大化 している欧米の医薬品企業の基礎研究への巨額の投資(例えば、サンガー センター)、セレーラゲノミックスのようなダイナミックな新しいタイプ の企業の出現を考えるなら、産学官を問わず、近い将来の我が国の研究競 争力に大きな不安を覚えざるをえない。 こうした事態をいささかでも改革する一つの方策は、産学官の協力によ る医薬品開発の基盤システムの開発である。この研究集会は、その可能性 を探ることを目的としている。そのために、最初に平山講師に既存の医薬 品の構造を俯瞰的に解析して薬となる化合物がどのような特徴を備えてい なければならないかを論じていただく。つぎに、田中講師に、こうした基 盤システムづくりへ臨床研究からの要望を話して戴く。また国立医薬品食 品衛生研究所化学物質情報部が外部協力者たちと開発している、医薬品や 生体作用データベースと生体分子のデータベースの統合環境の現状と将来 計画を簡単に紹介していただく。(時間の関係で資料のみになる可能性も あります。)最後に永島講師に、このような基盤的なデータベースの意義 と発展方向、産官学の協力の可能性などにつき、話していただき、総括的 な討論を行う。 尚、米国ベンチャー企業よりこの件に関連した講演者を招聘する可能性 もあります。この場合、長い講演であれば午前に、短い場合は国立衛研と 永島講師の時間内にお話しいただく方向で検討しています。このことをあ らかじめご了承ください。