蛋白質の構造解析といえばX線、NMR、電顕で行われてきた。しかし、中性子回折による構造解析法もあるということが案外知られていない。中性子回折法が普及していない理由は簡単で、実験室で使えないからである。原子炉のそばに行って中性子を取り出し実験するという、およそ現実離れした方法であるといえる。しかも、中性子回折で何がわかるのかといった基本的な情報を知る人が少ないことと、結晶が取れればX線結晶構造解析という確固たる流れが出来ているため、長い間中性子回折研究においては基礎研究のみが行われてきた。
現在中性子回折では1mm角の結晶があれば蛋白質に結合する全ての水と水素を決定することができる。水分子は直接的な相互作用の相手としてはもちろんだが、自由エネルギーへの寄与など薬物−蛋白質相互作用エネルギーの見積もりに決定的な役割を担う。中性子回折により水分子の挙動が正確にわかれば分子シミュレーションの性能向上に対する貢献が期待できる。
ところで茨城県東海村にある日本原子力研究所に大強度陽子加速器の建設が開始され、数年後には産業利用が可能となる。これにより飛躍的に中性子回折データ収集効率が高まり(原理的には100倍以上)、蛋白質構造解析への応用が促進されることが期待される。
今回、大強度陽子加速器建設プロジェクト中性子研究関係の責任者である原研新村信雄氏に中性子回折研究の現状と将来についてわかりやすく講演していただき、薬物分子設計における利用の展望をお聞かせ願えることになった。また、分子動力学研究の世界的権威者である郷信広京大名誉教授から、中性子回折からの情報に基づき分子シミュレーションを行い、計算精度を高めて如何に分子設計に応用できるのかということを教えていただけることになった。蛋白質構造解析を行っている研究者はもちろん、分子設計、計算科学、バイオインフォーマティクス研究に携わっている方などに是非参加していただきたいと思います。
日時: 2002年5月31日(金)13:00−17:30
場所: 日本薬学会 長井記念ホール
渋谷区渋谷2丁目12番15号 TEL03-3406-3326
世話人:河野昌仙((株)三菱総研)、川上善之(エーザイ(株))
演題
13:00-13:10
開会挨拶と中性子の産業応用フォーラムと大強度陽子加速器計画についての紹介
川上善之、河野昌仙13:10-14:10
「タンパク質の水素原子と水和の配向を観測できる中性子回折実験の基礎と応用」
新村信雄(日本原子力研究所研究主幹)14:10-15:10
「タンパク質中性子回折結果実例紹介」
茶竹俊行(日本原子力研究所博士研究員)休憩
15:20-16:20
「中性子散乱、タンパク質ダイナミクスシミュレーション(序論)」
郷 信広(日本原子力研究所特別研究員、京都大学名誉教授)16:20-17:20
「中性子散乱、タンパク質ダイナミクスシミュレーション(具体例)」
北尾彰朗 (日本原子力研究所研究員) 17:20-17:30 まとめ
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