開催趣旨:
近年、医薬品の薬効・副作用を考える際に、Quantitative Systems Pharmacology (QSP)の概念が提唱されてきた。QSPの定義は必ずしも統一されていないが、大まかには、薬効・副作用発現を多数の生体分子の発現や相互作用の総体として捉え、生体システム全体を数理的に記述することにより、薬効・副作用発現の時間推移を精緻に予測するコンセプトとして捉えることができる。QSPのモデル構築の中で、最も早くから研究され、比較的予測性についても検証が進んでいるのは、薬物の体内動態の時間推移を記述する生理学的薬物速度論(PBPK)モデルであるといえる。これまで数多くのPBPKモデルが提唱され、薬物相互作用・遺伝子多型・病態等様々に異なる生体システムの条件下で、多様な薬物動態特性を有する医薬品を投与した際の血中動態・組織分布の予測が試みられてきた。しかしながら、過去の報告において、たまたまある臨床データに合致する1つのパラメータセットが選択されたのみで、個々のモデルパラメータの一意性・信頼性が十分に検証されていないがために、本来PBPKモデル構築の利点の一つである、パラメータを変化させるだけであらゆる状況における予測が可能となる普遍性の部分が十分に担保されていないものが散見される。我々はこれまで、数多くの薬物・臨床事象に適応可能なPBPKモデルの統一された構築法を模索してきた。その中で、in vitro実験によって個々の分子反応の速度論パラメータを取得し、生体の構成に従って論理的に再構築する”bottom-up”型のアプローチは、創薬過程においては非常に魅力的ではあるが、必ずしも全てのパラメータが現状で汎用されている実験系・実験条件で得られたパラメータと単純に合致しない事例も出てきている。その辺りを明確にするためにも、臨床データにモデルパラメータをfittingさせる”top-down”型のアプローチとミックスさせながら妥当なPBPKモデルを完成させるのが、現状での現実解であるといえる。
本講演会では、PBPKモデル構築の統一理論を完成させるべく、これまでの知見に基づき、各モデルパラメータ設定における現状の精度・信頼度およびそれが臨床アウトカムの予測に与える影響について、主に薬物相互作用にフォーカスして議論すると共に、QSPへの連結を見据えた今後の研究展開に対する展望を俯瞰できるような企画とした。このような研究は、集学的なアプローチが求められることから、広く創薬に携わる産官学の研究者に参加して議論に加わってもらいたいと考えている。
プログラム
一部講演順が変更となりました(2と3が入れ替わりました)
- 10:00‐10:10
「はじめに」
杉山 雄一(理化学研究所)
- 10:10‐11:05
「複雑な薬物間相互作用の定量的予測にかかる現状と課題、そしてその克服へ向けて」
前田 和哉(東京大学大学院薬学系研究科)
- 11:05‐12:05
「動態予測におけるbottom-up approachとtop-down approachの統合の必要性」
杉山 雄一(理化学研究所)
<12:05-13:10 昼食休憩>
- 13:10‐13:55
「薬物間相互作用および個人間変動の予測に重要な当該代謝酵素、
トランスポーターの寄与率(fm, ftr, Rdif)の推定における諸問題」
吉門 崇(横浜薬科大学薬学部)
- 13:55‐14:40
「肝取り込みトランスポーター(OATPs), 胆汁排泄トランスポーター(MRP2)機能のバイオマーカーとしてのビリルビン
およびそのグルクロン酸抱合体の有用性;PBPKモデルを用いた解析」
宮内 正二(東邦大学薬学部)
<14:40‐14:55 休憩>
- 14:55‐15:35
「バーチャルクリニカルスタディ(VCS)の適用;タモキシフェン有用性の評価」
中村 利通(帝人ファーマ株式会社)
- 15:35‐16:15
「企業研究における探索段階でのTime dependent inhibition(TDI)の諸問題の解決と
効果的なリスク評価法の設定」
小杉 洋平(武田薬品工業株式会社)
- 16:15‐16:55
「トランスレーショナルリサーチイニシアチブ
- システムズバイオロジーによるright target-right patient へのチャレンジ -」
小川 武利(第一三共株式会社)
- 16:55‐17:05
「終わりに」
前田 和哉(東京大学大学院薬学系研究科)
- 18:00‐20:00
懇親会 (場所:東京大学山上会館地階食堂 御殿 参加費:\3,000)