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10月15日(月)      10月16日(火)      10月17日(水)

10月16日(火) 講演要旨

◆大ホール

<招待講演:ケミカルバイオロジー> 10:00-11:30
半田 宏(東京工業大学大学院生命理工学研究科)
  演題: 化合物タ-ゲットから創薬への展開
  要旨: 薬剤を含む低分子化合物は、体内でタ-ゲットタンパク質と選択的に結合し、その構造と機能を変換することで薬効を発揮します。従って、薬の作用メカニズムやタ-ゲット関連のネットワ-クを理解するには、タ-ゲットの同定が必要不可欠です。我々はビ-ズ技術を開発し、数十万個のタンパク質ライブラリ-からワンステップでタ-ゲットを単離・同定する技術を開発しました。しかし、タ-ゲットを同定してから薬剤開発までに至るには、そう簡単な道筋ではありません。本シンポジウムでは、これまでの我々の知見を提供してタ-ゲットの同定から創薬への可能性について皆様と自由に討論しましょう。
 
上田 実(東北大学)
  演題: 配糖体型天然物リガンドのケミカルバイオロジーに見る活性制御の新戦略
  要旨: 生体内には多くのグリコシドが存在している。しかし、生体内における内因性リガンドのグリコシル化は、多くの場合、輸送や貯蔵、排出などに関係するnegativeな過程であると考えられてきた。我々は、植物ホルモンの一種ジャスモン酸類の受容体と活性が、グリコシル化によって、スイッチを切り替えるように変化する現象を見い出し、これを”Glycosylation Switching”と名付けた。これは、内因性ホルモンの活性が、生体内におけるグリコシル化によって制御されることを示している。一般にグリコシル化は、生理活性物質の不活性化に寄与すると考えられているが、本例のように全く異なる活性を示すに至る例はこれまで知られていなかった。本講演では、動物の内因性ホルモンにおける”Glycosylation Switching”の可能性についても述べ、生物全般において機能する活性調節機構としての”Glycosylation Switching”について議論する。
   

<招待講演: In-silico 創薬の課題と展望 1 > 13:30-15:00
望月 祐志(立教大学)
  演題: FMOプログラムABINIT-MP(X)の開発と応用
  要旨: ABINIT-MP(X)は、私たちがフルスクラッチで開発を続けているFMO計算のための プログラムです。この講演では、プログラムの機能概要・性能評価と共に、4体展開 (FMO4)による相互作用エネルギーの詳細解析事例を紹介させていただきます。
   
中馬 寛(徳島大学)
  演題: 分子科学計算を用いた新しい構造活性相関の展開: 結合自由エネルギー変 化の線形表現
  要旨: FMO, ONIOMの非経験的分子軌道法等の分子科学計算による薬物・タンパク質相互作用解析に基づく新しい定量的構造活性相関解析法、自由エネルギー変化の代表エネルギー項による線形表現解析(Linear Expression by Representative Energy terms (LERE)-QSAR)の構築とその応用例について述べる。
   

<招待講演: In-silico 創薬の課題と展望 2 > 15:30-17:00
市原 収(シュレーディンガー(株))
  演題: リガンド結合に対する溶媒和水の役割の理解:合理的な薬物デザインへの応用
  要旨: 近年、リガンド結合に対する溶媒和水の影響を理解することが、創薬研究において重要な課題となってきている。WaterMap (Schrödinger LLC, New York, 2008) は、溶媒和水の熱力学的プロフィール(バルクでの値を基準としたエントロピーとエンタルピー)を、分子動力学シミュレーションにより求める計算化学ツールである。本研究では、その結晶構造が既知†であるフラグメント・ヒット/リード化合物ペア(CDK2, p38, HSP90, uPA, PPARs, BACE1, PDE4 etc)、20組以上についてWaterMapによる溶媒和効果の解析を行い、フラグメント・ヒットは、対応するリード化合物と比較して、より大きなエントロピー項の寄与を持つ水分子を置き換える事により標的タンパク質に結合する傾向の強いことを明らかにした。必ずしも、より大きな自由エネルギー寄与を与える水分子ではないことは、興味深い。解析結果は、FBDDの拠り所とする考え方を補強すると共に、FBDDによるリード化合物創製の戦略に対し、有益な示唆を与えるものと考える。
† Orita M., Ohno K., Warizaya M., Amano Y., Niimi T., Methods in Enzymology 2011, 493, 384
   
小沢 知永(キッセイ薬品工業(株))
  演題: フラグメント分子軌道法のタンパク質- リガンド相互作用解析への応用
  要旨:
   
中尾 直樹(第一三共(株))
  演題: 製薬企業におけるComputer-Aided Drug Designの活用
  要旨: コンピュータ技術の急速な発展により、近年CADD (Computer-Aided Drug Design)を利用した創薬研究は広く行われており、いまやベンチケミスト自身が、専門家に頼らず気軽にCADDソフトを扱える時代となった。しかしながらCADD技術は、特にリガンド-蛋白相互作用の高精度予測においていくつかの深刻な問題を抱えており、創薬を行う上で十分に満足できるレベルに達しているとは言い難い。今回は、弊社におけるCADDの活用状況と現状における問題点の抽出、および現状打開のための取り組み等について紹介したい。
   

◆小ホール

<招待講演: 生命科学におけるスパコン京の活用 > 13:30-15:00
石田 貴士(東京工業大学)
  演題: GHOST-MP:「京」を用いた超高速メタゲノム解析パイプライン
  要旨: 土壌、海洋、ヒト体内等の環境中に生息する微生物のゲノムを分離培養せずにそのままシークエンスして解析するメタゲノム解析は、未知の微生物のゲノム情報が得られるだけでなく、その環境中の共生系の理解や環境汚染の監視等に有用であり注目を集めている。近年では次世代シークエンサーの登場により、膨大な量のゲノム情報が短時間のうちに入手可能となっており、その大規模な情報を用いることでメタゲノム研究が更に進展することが期待されている。しかし、メタゲノム解析ではサンプルに含まれる種のゲノム情報の多くが配列データベースに登録されていないため、遠縁の種のゲノム情報に対する高感度な配列相同性検索処理が必要となるが、この処理が多くの計算を必要とするため現在では計算機による処理が解析を進める上でのボトルネックの一つとなってしまっている。そこで、我々は次世代シークエンサーによる大量のメタゲノム情報を現実的な時間内に解析することを目的とし、「京」の膨大な計算能力を利用可能とする大規模な解析パイプラインを構築した。また、パイプライン中で実行される配列相同性検索についても接尾辞配列を用いた新たな配列相同性検索アルゴリズムの開発を行い、その高速化を実現した。これによって次世代シークエンサーから得られるメタゲノム情報を数時間の内に処理することが可能となっており、今後はこのパイプラインによって次世代シークエンサーによるメタゲノム解析が促進されることを期待している。
   
高木 周(東京大学)
  演題: 予測医療に向けたマルチスケール血栓シミュレータの開発
  要旨: 血栓症は,心筋梗塞・脳梗塞を引き起こす重要な循環器系疾患である.血栓形成の初期段階である血小板凝集は,血小板が血管壁へと接着する一次凝集と血小板が活性化し,血小板同士の接着にまで発展する二次凝集の2つの段階に分けられる.一次凝集では,血小板表面の糖タンパクglycoprotein Ibα(GPIbα)と血管壁に接着しているタンパク質von Willebrand Factor (vWF)との間の結合が重要な役割を果たしている.このタンパク質間の結合は血小板と血管壁の接触面において数十から数百個程度形成され,両者を結びつけている.また,より大きなスケールで見ると,血漿・血小板・赤血球の力学相互作用が血栓の形成に大きく関与している.このように血栓の形成過程は様々な時空間スケールの現象が複雑に影響しあいながら進行する典型的なマルチスケール問題であるため,スケール間を橋渡しするような大規模な連成解析が必要となる.本講演では,「京」コンピュータ向けに開発が進んでいる,リガンド・レセプターの分子間相互作用をモンテカルロ法で計算しながら, 有限差分法に基づく流体構造計算手法と連成させるマルチスケール血栓シミュレータについて説明する.
   
森 貴治(理化学研究所)
  演題: 分子シミュレーションによる膜タンパク質のダイナミクスと機能の理解
  要旨: 膜タンパク質は全遺伝情報の30%近くを占める重要な生体分子であるため、創薬の主なターゲットとして、近年、その構造と機能が実験・理論を問わず盛んに調べられている。膜タンパク質の構造変化や原子レベルでの機能メカニズムを調べる方法として、分子動力学シミュレーションが広く用いられている。膜タンパク質-脂質二重膜系は非常に巨大なシステムであるため、全原子モデルを用いた計算にはスーパーコンピュータの利用が必要不可欠である。本発表では我々がこれまでに行ったタンパク質透過装置Secトランスロコンのシミュレーションとそこから得られた膜タンパク質のダイナミックな描像について紹介する1,2)。さらに、現在開発している新しいシミュレーション法と生体膜系への応用について述べる。
1) T. Mori, R. Ishitani, T. Tsukazaki, O. Nureki, and Y. Sugita, Biochemistry, 49, 945-950 (2010).
2) T. Mori, F. Ogushi, and Y. Sugita, J. Comput. Chem., 33, 286-293 (2012).
   
鎌田 知佐(理化学研究所)
  演題: 生命科学に開かれた京およびSCLS計算機システム
  要旨: 革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)が整備され、2012年9月末より、京コンピュータを中心としたHPCI共用計算資源の利用が開始されている。
HPCI計算生命科学推進プログラム戦略分野1では、計算科学技術推進体制の構築のミッションの一つである「人的ネットワークの拡大」において、生命科学の研究者、創薬・医療企業の研究者の京利用の支援を進めている。
本講演では、戦略分野1「予測する生命科学・医療および創薬基盤」の紹介とともに、より多くの計算生命科学者の研究開発にHPCI環境を役立ててもらうため、当プロジェクトにて導入を計画している京コンピュータ互換スーパーコンピュータシステム(SCLS計算機システム)の活用の仕方や提供予定のサービスを紹介する。スーパーコンピュータの利用に関心を持っていただく機会になれば幸いである。
   

<招待講演: 医薬学における融合オミクス解析 > 15:30-17:00
荒木 令江(熊本大学大学院)
  演題: 融合プロテオミクスによるがんの病態システムズバイオロジー
  要旨:治療標的となりうるがん細胞内の異常シグナルネットワークを検索するため、病態組織細胞サンプルを用いた融合プロテオミクスの方法論確立とその応用を試みている。本講演では、タンパク質の網羅的発現差異解析法であるiTRAQ法、翻訳後修飾変化の解析を中心とした2D-DIGE法、およびmRNAレベルの発現差異解析法であるDNA arrayを融合的に用いて同一サンプル群を同時に解析し、得られたすべての情報を統合マイニングすることによって、病態において異常に制御されたシグナル伝達経路を特異的に抽出する方法論とその検証方法を含む応用例を紹介する。全てのデータを統合マイニングし、重要分子シグナル群を抽出するための統合マイニング解析プログラム(MANGO: MCP2009, iPEACH: PCT/JP2011/58366)を考案し、さらに抽出重要分子群の迅速検証法、siRNA、阻害剤、活性化剤等を用いた生物学的機能解析法などを検討することによって、スタンダードとなりうる一連の統合的方法論の開発を行った。この方法論を用いて、特に悪性グリオーマおよびその幹細胞の悪性化、薬剤感受性に関わる分子群の解析、検証に応用し、新規の抗がん剤感受性低下や抵抗性に関わって治療標的となりうる分子群の活性化ループを見出すことに成功した。又、如何に融合技術によって大量に得られた分子データ群を迅速に処理し、重要機能分子群を抽出して検証する方法論が重要かつ有用であるか、創薬の観点から考察し、検証した例を紹介する。これらの方法論はすべての疾患・病態の解析はもとより、細胞生物学における基礎的な分子メカニズム情報を得るためのアプローチにも応用でき、蓄積されたデータベースを活用することによって、新しい病態メカニズムの解明や診断や治療のマーカー・創薬開発に重要な基礎情報を得る方法論として有用であると考えられる。
   
上家 潤一(麻布大学)
  演題: タンパク質の定量と翻訳後修飾プロファイルの同時解析を可能にするAQUA proteinの開発と腎臓病理学への応用
  要旨: タンパク質の発現量と翻訳後修飾プロファイルは機能に直結する情報であり、その解析は生命現象を理解する上で重要である。我々は、全てのアミノ酸残基が安定同位体標識された全長タンパク質を内部標準とし、SRMで測定することで、発現量の定量および翻訳後修飾部位の同定を同時に 測定する手法を開発した(AQUA protein)。タンパク質を内部標準とすることで、従来のペプチドを内標とする定量法の課題であった前処理における損失補正が可能となる。本法で用いる内部標準は大腸菌発現による非翻訳後修飾体であることから、得られる定量値は非修飾ペプチドに由来する。従って、修飾部位は平均定量値より低値を示すことから同定される。 また、平均値との各ペプチドの定量値の差から修飾量の算出が可能である。
AQUA protein を用いて、腎糸球体の濾過障壁を構成するnephrinの細胞あたりの発現量およびPTMプロファイルを明らかにした。さらに蛋白尿モデルラットにおけるこれらの変動を明らかにしている。本講演では、AQUA proteinの原理を解説し、nephrinを中心に腎臓病理学への応用を紹介する。
   
財満 信宏(近畿大学)
  演題: メタボローム可視化の生命科学への応用
  要旨: 研究対象を可視化して観察することは重要な研究手段である。これまでには、病理染色や免疫染色、in situ hybridizationなどが生体分子の可視化手法として重要な役割を果たしている。しかしながら、これまで一般的に用いられてきたこれらの可視化手法では、可視化して観察することが非常に困難な生体分子が多く存在する。従来の手法では可視化が困難な生体分子の可視化を可能にする新たな手法として注目を集めているのが、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法-イメージングマススペクトロメトリー(MALDI-IMS)である。
MALDI-IMSは組織切片上で二次元の質量分析を行うことにより、生体分子の位置情報を明らかにする手法である。具体的には、薄切片とした生体試料にマトリックスを噴霧して生体分子とマトリックスの混晶を切片上に作る。そして、微小径のレーザーを数マイクロ~数百マイクロメートルオーダーの間隔で二次元に順次照射することによって、位置情報を保ったまま生体分子の質量分析を行う。その後、専用のイメージングソフトウェアを使用することにより、任意の生体分子の組織切片における分布を、測定点ごとのシグナル強度に応じたイメージとして画像化できる。
このMALDI-IMSの生命科学分野への応用により、多くの重要な発見がなされている。本発表ではこれらの研究応用例や今後の課題などを議論したい。
   
内田 和彦(筑波大学 医学医療系)
  演題: オミックス解析による先制医療のためのバイオマーカー開発
  要旨: 疾患は早期に発見されれば早期の治療・介入によってその進行を防ぐことができる。認知症患者数は、現在国内で300万人、世界で3,560万人、2050年には世界で1億人以上になると予測されている。一方、認知症になる前の軽度認知障害(MCI)や認知症の前臨床状態(preclinical stage)で介入・治療を行えば、患者数は大幅に減少するといわれている。このように、病気の早期や前臨床状態で診断、治療・介入を行ういわゆる先制医療(preemptive medicine)の実現には、病気の早期や前臨床状態で変化するバイオマーカーの発見がキーとなる。われわれは、多次元HPLC、質量分析装置、ディファレンシャル解析ソフトウェアツール(DeViewTM、ParnassumTM)からなるバイオマーカー探索のためのディファレンシャルプロテオーム解析システムを構築し、ウイルス性肝炎や非アルコール性脂肪性肝炎などの肝疾患、認知症などの精神神経疾患について、病態の超早期で変化するバイオマーカーの探索を行ってきた。タンパク質の分解産物であるペプチド(低分子プロテオミクス)とタンパク質の糖鎖修飾などの翻訳後修飾に注目してオミックス解析した結果、従来にない高い精度で、また病態のきわめて早い段階で疾患が識別できる血中バイオマーカーを見出してきた。治療薬の開発から先制医療のためのバイオマーカー開発への医療のパラダイムシフト(from curative to preemptive medicine)の可能性について議論したい。
   

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