近年の科学・産業界のオープンイノベーションの試みによって、その成果が確実に創薬分野にも表れています。本学会においても2年続けて創薬のオープンイノベーションと関連する学問分野に焦点を当てて開催され、in silico創薬の実用性が報告されています。in silico創薬のみならず広い意味での計算創薬の進捗を加速するため、CBI 学会2017年大会も創薬オープンイノベーションを主題とし、その中でも特に、データ階層の異なる研究の融合に焦点を当てることにします。
創薬が様々な業種の集合体として成り立つ総合産業であることから、創薬プロセスにおいて様々な階層のデータを利用しています。化合物やタンパク質の分子構造情報、ゲノム情報、モデル動物情報、オミックス情報、個体(患者)情報など多階層から成っています。互いに異なるAとBから融合したより良いCという結論を導く弁証法により科学が発達したことに倣えば、異なるデータ階層の融合研究こそがオープンイノベーションのカギと言えるでしょう。近年のAIブームでわかるように、多階層のデータをひとまとめにして、潤沢な計算資源を利用して機械学習・推論するアプローチが注目を集めています。生命科学において正例の定義が困難である、異なる単位のデータを同等に混在させるなど、欠点も指摘されていますが、このブームは、異なる階層のデータを鳥瞰した結論を得たいという要求に対して一つの回答を与えています。
コンピュータ上のデータ融合とは異なり、人間同士の研究テーマの融合は困難を伴います。職人気質を尊重する日本の風土において、一つの分野の専門的な深い知識が尊重されますが、一方、井の中の蛙、淫している、という言葉があります通り、その弊害も認識されています。様々な研究分野の研究者が過去の成功体験を乗り越える勇気と決断によって、新たな成功に向け一歩を踏み出し、最新状況や今後のニーズを共有し議論を深めた上で、新しい融合研究領域を創造する突破口を得る機会になれば幸いです。
アカデミア、製薬企業でオープンイノベーションによる創薬を推進している方々、あるいは興味をお持ちの方の積極的な参加をお願いいたします。