ヒトゲノムの解析と、疾患原因タンパク質の構造解析が可能となって以来、計算化学及び計算生物学を活用した創薬プロセスの劇的な効率化、いわゆるin silico創薬は、創薬に携わる研究者にとって大きな夢でありつづけています。1990年代から2000年代を通して、構造生物学によるタンパク質構造解析技術の進歩と様々な計算手法の開発があり、いくつかのターゲットにおいて大きな貢献がありましたが、多くの標的で安定してin silico創薬に成功するまでには至っていません。しかし2010年代に入り、大規模MD計算やFMO法などにより精密な生体分子シミュレーションが実用的になったこと、従来は困難であった膜タンパク質の構造解析が可能になったこと、及び重層的かつ大規模な医療や医薬候補化合物の基礎データいわゆるビッグデータの収集と解析が可能となったことにより、in silico創薬の実用性は次の段階の入り口に立っています。
一方、製薬産業では、有望な低分子創薬ターゲットが枯渇し、タンパク質間相互作用などの従来型の化合物ライブラリーではヒットが得られない創薬ターゲットや、抗体、核酸、細胞医療などの新しい医薬や医療技術へのニーズが高まっており、多くの学問領域を巻き込んだオープンイノベーションが欠かせなくなっています。このような状況の中、2015年には、日本医療研究開発機構(AMED)が設立され、創薬イノベーションをオールジャパンで推進する体制が整いつつあります。
以上の背景を踏まえ、2016年のCBI学会は、昨年に引き続き、創薬のオープンイノベーションと関連する学問分野に焦点を当てて開催します。特に生体分子シミュレーション、構造生物学、ビッグデータについての多くのセッションを準備して、in silico創薬がどの程度実用的になったのか、また次の時代に活躍するための課題について議論したいと考えています。様々な学問分野の研究者が、最新の状況や今後のニーズを共有し議論を深め、今後の創薬研究へのヒントを得るとともに、社会に必要とされる新しい境界領域の学問を創造する場になれば幸いです。
アカミデア、製薬企業でオープンイノベーションによる創薬を推進している方々、あるいは興味をお持ちの方の積極的な参加をお願いいたします。