近年における情報科学、特に、人工知能(Artificial Intelligence: AI)の進化は目覚ましく、幾多の分野で社会実装が急速に進んでいます。製薬産業においても、その利活用の報告は国内外を問わず枚挙に暇がなく、正に変革の時を迎えています。かような潮流の中、本学会では、2017年の「データ駆動型研究が拓く創薬」、2018年の「創薬と育薬のレギュラトリーサイエンス~AI創薬時代の新展開~」、そして昨年の「構造生物学と情報科学の真の融合を目指して~AI時代の新創薬化学~」という主題を掲げ、創薬研究における情報科学の利活用に関し、最先端の研究成果も交え、広範な視点から議論を重ねてきました。
最近では、サイバー空間とフィジカル(実)空間の融合が始まっています。これは、フィジカル空間において生成・観測されたデータを、サイバー空間において集積・解析し、その結果をフィジカル空間にフィードバックする循環を形成するものであり、サイバー空間とフィジカル空間との一体化による深化をもたらします。おりしも進む協調ロボットの発展と普及による自動化は、これを推し進めるものであり、従来型の重厚長大な産業ロボットによる大量生産に適した定型的・画一的な自動化から、AIとの連携による自律的・多能的な自動化へと、既存の産業構造の変革を促す起点にすらなりえます。
創薬研究において、フィジカル空間にて生成・観測されるデータの一つは、科学実験に由来します。科学実験は、多岐に渡る素行程の複雑な組合せにて構成されますが、様々な専門分野で自動化が着実に進展しています。ルーチン的ベンチワークの自動化による高効率化のみならず、ヒトの手技を凌駕する高精度な実験データを普遍的に取得する高生産性を研究者にもたらしています。音楽や絵画に代表される創作物が自動でフィジカル空間に供給されつつある現在、科学実験というフィジカル空間でのデータ生成を伴う、言わば究極の創作行為である研究活動そのものが自動化される日も、遠い未来とは限りません。
本大会では、“実験の自動化”をキーワードとし、生物学や化学などの様々な分野における科学実験の自動化、そして、AIとの融合による更なる展開に関し、第一線で活躍される研究者や専門家の先生方から最新動向を頂き、来るべき未来の創薬研究の姿に関して議論する場にできればと考えております。アカデミア、産業界、また、専門分野を問わず、今後の創薬研究の方向性を考える方々の積極的な御参加をお願いいたします。
CBI学会2020年大会 | 大会長 | 夏目 徹(産業技術総合研究所) |
実行委員長 | 石原 司(産業技術総合研究所) |